暇人の英語雑記ブログ

星島貴徳物語 – 第1章

2021.09.122018.08.23事件
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補足
これは2008年に発生した「江東マンション神隠し殺人事件」関連で手に入れることのできた全ての資料を元に、事件を犯人である星島貴徳の視点で見た物語(ノンフィクション)です。

警察の取調べにて作成された供述調書を主要参考文献としているので、時系列で進めていく話は事件の事実に忠実に沿う形となっています。

無期懲役の判決を受けてからずいぶん経つ。

獄中生活は単調な毎日だ。

起床、労働、1日30分の運動、そして就寝。一部の優遇処置を受けている受刑者以外は時計を保持することすら許されていないので、号令でしか一日の時間を知るすべがない。

明日も明後日も、来週も、来月も・・。未来に一切の変化が期待できない環境下において、常に自分の頭の中にあることは事件のことだけである。

忘れたくても忘れることができない。いや、忘れてはいけないあの運命の日。

なぜ自分は今ここにいるのか・・。

2008年4月上旬

星島はいつものように自慰行為に励んでいた。

使用していた素材は覚えていない。お気に入りのAV女優西川ひとみ(大沢佑香)の作品だったのだろうか。

興奮を引き起こすものであれば、内容は問わない。アニメでもマンガでもドラマでもイラストでも何でも利用する。

1日平均2-3回はするが、多い時は5回を超える。まれにしないときもある。

いつも想像するのは自分の完全にいいなりにある女性である。もちろんそのような女性が現実社会に存在しないことは百も承知だ。

ソフトウェア開発で個人事業主という形をとっており、月の手取りは50万を超えるが心にはいつもぽっかり穴が開いていた。

何かが足りない。

その何かは自分には分かっていた。

彼女である。

自分のことを心の底から愛してくれる女性。そんな存在を死ぬほど欲していた。

職場での人間関係は決して悪くはないが、やはり人とのやりとりはストレスを生む。

そんなイライラを感じているときにふと思った。

「ひとりの女性をセックス漬けにして、自身の言うことを全て聞く性奴隷を作ることは可能なのではないか」

囚人の身となり物事を客観的に見ることができるようになった今となれば全くもってバカげた発想だが、そのときは本当に自分になら達成できると思った。

風俗嬢を相手にしたセックスでは、皆が口をそろえて自分のテクニックを称賛してくれる。

「自分になら意のままに操ることができる女性を作成できる」

その屈折した自信は不吉な方向へと変質していった。

4月18日女性拉致実行日

1週間熟考した結果、計画の実行は4月18日の金曜日と決めた。今日がその当日である。

金曜日を選んだ理由は簡単。相手が土日を休日とするOLであれば、金曜の夜を含め3日間という長いスパンが与えられる。

女性の人格を上書きするには十分な期間だ。

自身が入居しているのはマンション最上階の南側918号室。となりは空室だが、その次の916号室には人が住居を構えている。

星島は通路に面した電気メーターを確認する癖があり、そこからその部屋に何者かが住んでいることは知っていた。

3月の初旬か中旬か、はっきりとは覚えていないがそこに住む女性とすれ違ったことがあり、そこから住人が女であることも承知していた。

ターゲットとする女性に高い理想は求めない。

極端に年齢が高いとか、極度の肥満とかでなければ誰でもいい。その程度の考えだ。

姉と妹という2人で生活していたという事実は犯行後に分かることだが、それ以前はてっきり OLの女性が一人で住んでいると思っていた。

親からの援助を受けるような立場にある学生が最上階のような家賃が通常より高く設定されている場所に住むということは考えにくいからだ。

賃貸契約書には2人暮らしは『可』と記載されていたのだが、初めから一人暮らしが前提だった星島はそこの項目を全く気にかけていなかった。

黒のタートルネックを身にまとい18時20分ころから自室である918号室の玄関内で目的の女性をひっそりと待ち構えていた。

靴は履いていない。相手の部屋に侵入したときに靴の跡を残したくないからだ。

「女性を拉致して性的快楽を与え続ける」

考えがこの一心だった星島はタオルや凶器の類は一切用意しなかった。無計画と言われればそのとおりである。

916号室のカギを開ける音を聞くため自室の玄関の扉はストッパーで少し開いた状態で、上がりかまちに腰を下ろす形で待ち受けていた。

「そういえば、帰宅途中に郵便受けの中を確認してなかったな・・」

しょうがなく腰を上げ一階へと向かう。

戻る途中、同じマンションに住む別の女性とすれ違う。反射的に彼女が乗ったエレベータを確認すると、どうやら6階で降りたようだ。

すぐさまもうひとつのエレベータを使用し同階まで行き彼女が住む部屋を確認しようとしたが、通路にはすでに誰もいなかった。

「どのみち6階から自分の部屋のある9階まで連れて行くのは技術的に難しいか・・」

そのようなことを考えながら918号室へと戻った。

途中916号室の電気メーターを再度確認したが、メーターは動いていない。

「まだ帰ってきてないな」

そう思いながら自室の玄関内へと戻る。

19:30頃 女性帰宅

ガチャガチャガチャッ。

「カギを開ける音・・。いつもと同じ音だ!」

飛びかかるタイミングを計るため、ドアにぴったりと張り付きその音に耳を澄ました。

lock-keys

タイミングは早すぎても遅すぎてもいけない。

早すぎると彼女と鉢合わせになる恐れがあるし、遅すぎるとドアのカギを閉められてしまう可能性がある。

「今だ!」

ドアを開け916号室へと向かった。その扉は今にも閉まりかかろうとしている。とっさに扉に手を入れ、中へと押し入った。

そこには右手を壁に付け、左手でブーツを脱ごうとする女性がいた。

彼女は星島の存在に気付くと、驚いて大声を上げた。

両者の目は完全に合ったが、不思議と彼女の顔はよく覚えていない。実際にきちんと見たのはこのときが初めてである。

「キャー、イヤー!!」

彼女が叫ぶ。2人はもみ合いの形になり、女性は両手を突き出し星島と距離を取ろうとした。

「このまま叫ばれ続けたらまずい」

マンガやアニメというバーチャルの世界でしか女性の行動原理を理解していなかった星島は、抵抗されるということをまったく考慮に入れていなかった。

彼女をおとなしくさせるために、右の拳で思いっきり殴った。非常に残酷だが、とっさにこれしか方法が思い浮かばなかった。

こめかみを狙ったその拳は、女性の左前の上あたりにヒットした。

手加減なしの全力である。

女性は抵抗を止め、うずくまるような姿勢へと変化した。

もう一度殴ろうと思ったが、おとなくなったので止めておいた。彼女を台所前の廊下に押し倒すと、うずくまるように体を丸めたので、ひざを伸ばそうと彼女に馬乗りになり足首を引っ張った。

足が縮んだ状態だと力が入りやすい。

「伸ばしておけばとっさには逃げれないだろう」

目の前の状況に性的興奮を覚えた星島は女性の白いブーツを脱がした。

彼女の息は上がっている感じだ。相当な恐怖を覚えているのであろう。全くの無抵抗状態になった。

これ以上抵抗するとまた殴られる。今考えると彼女はそのような心理状態にあったかもしれないが、犯行時の星島はそこまで頭が回らなかった。

「とりあえず逃げられないようにしなければ」

彼女のコートを半分ずらし、両腕を後ろ手に縛り自由が利かない状態にした。

たまたま台所に包丁が置いてあり、それを左手で取り右手に持ち替えた。単純に脅すために利用できると考えたのだ。

「とりあえず、この場所はよくないな」

そう考えた星島は包丁を持つ右手でコートをつかみ、左手で頭をつかむ恰好で916号室の奥の洋室まで女性を連れて行った。

彼女はつまずくように、マットの方へと倒れ込みうつ伏せの状態になった。

照明が付いていない暗い部屋の中、彼女に近づいた。

ピンクのカーテンはほとんど閉まった状態だ。大手商社のオフィスがマンションに隣接するかたちで存在する。

犯行時刻はまだ残業している社員がいる可能性がある。それらに見られてはまずいと、とっさにカーテンを閉めた。

自宅と同じ間取り。部屋の全体像は熟知している。

フロアに倒れ込んでいる女性に力を入れて引き上げようとすると、素直にも彼女が自発的に立ち上がった。

一度照明をつけ逃走する意欲をそぐための目隠しや、その他利用できそうなものを探した。

タオルが近くにあったが、縛るには少々使いずらい。手にしていた包丁で縦に少し切ると、残りは手で引き裂いた。

その間女性は手が後ろに縛られた状態で、屈折運動をするかのような状態で前にかがみこんでいた。全くの無抵抗である。

横に黒いラインの入ったピンクのジャージが足下にあったので、それを一本のタオルのように扱い顔を覆うような形で彼女を目隠しをした。

「これで自分の次の行動は悟られない。悟られなければ、逃げられない」

そのジャージにはナプキンが付いていたので、タオルでつまむようにして床に置いた。

ここにいてもしょうがないと思い、自室である918号室へ移動することを考えた。

台所で発見した包丁を手に、床に頭が付くほどの前屈姿勢である彼女を玄関に向かって歩かせた。

玄関には彼女のものと思われる靴などが複数あり、いささか歩きづらい。

バランスを取るために玄関の壁に手を付いたが、ここに残された指紋が自身と事件を結びつける決定要因となることは、犯行時には全く頭の中になかった。

玄関で黒いバッグを見つけた。

「相手の素性を知るにはいい」

そう考え拾った。

「名前も年齢も職業も何も知らないより、知っておいたほうがいい。後から脅迫などにも利用できるかもしれない」

お金を取る目的は微塵もなかった。

欲しているものはあくまでも自身の言うことをなんでも聞いてくれる性奴隷の存在である。

次章:星島貴徳物語 – 第2章

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