星島貴徳物語 – 第6章
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手足の解体
ホームセンターからマンションに戻った。
9階でイスに座ってうつむいている女性に出くわした。殺害した女性の姉であることはすぐに理解できた。腕には『立会人』という緑色の腕章を付けている。
事件より1ヵ月前の3月に916号室前で見かけており、星島の本来のターゲットである。
彼女はうつろな状態で、かなり衰弱しているように見えた。
「もう殺してしまっている。妹さんが帰らないことは自分には分かっている・・」
自身の不安が気づかれるかもしれないと怖くなり、逃げるようにして918号室に入った。
謝罪の気持ちは一切なかった。逮捕は絶対にされたくない。その一心だった。
その夜事件の報道を初めて目にする。
23歳のOLが行方不明になり、自宅から血痕が発見されたというストーリーである。
「まだ血が残っていたのか・・」
自分が疑われるのも時間の問題だと考えた。
この日は大小2本の包丁と金のノコギリを使用し足と手をバラバラに解体していった。一番心理的抵抗の少ない箇所である。
頭には顔があり、胴体には内臓がある。それがそれらを後回しにした理由だった。
「肉はトイレに流せるとしても、骨はどのように処分しようか・・」
そのようなことを考えた。
少なからず小さくバラバラにしなければいけない。そうすれば通勤用の緑色のカバンで警察の目をかいくぐり、少しずつ外へ持ち出せるだろう。
そのようなことを思いついた。
ゴミ袋に詰めて冷蔵庫に入れていた腕はすでに硬直し曲がった状態だった。片方を取り出し浴室へと向かう。
左右のどちらを初めに解体したかまでは覚えていない。
袋は腕とともにシャワーで洗い流し、浴室のバーにかけて干した。
解体に取り掛かる。
まず付け根のほうから肘に向かって切り、今度は腕を一周するように切っていき骨を取り出す。
そして板のような形状に変化した肉を持ってきたまな板の上で包丁で輪切りにしていく。
切り刻んだ肉がたまってくると両手でトイレに持っていき流した。
3cmほどのサイズでちゃんと流れることを確認した後は早く処分したいという気持ちもあり、徐々に大きくしていき最終的には5cmほどになっていた。
非常に残酷な風景だが、特に感情移入はしなかった。
「早く終わらせよう」
頭の中にあるのはそれだけだ。
途中突き出た骨はノコギリで切っていった。嫌なニオイがしたことを覚えている。
肘の関節は力を入れて外したりしていった。
手のひらもノコギリで指先を外してトイレに流していった。どの指だかは覚えていないが平たい形をした指輪を付けていたことは記憶の片隅にある。
特に取り外すようなことはせず、指に付いたままトイレに流した。
手の甲はノコギリで細かくした後いったん袋に入れておく。
解体がひと通り終わると残った部分は両手の手のひらに乗るくらいのサイズになった。それを洗い、乾かしておいたゴミ袋に入れる。
もう片方の腕を取り出すときの邪魔になると考え、冷凍庫のほうに入れた。
2本目の腕も同様の方法で解体していく。
次に足だ。
腕と同じくこちらも左右どちらから取り掛かったのかまでは覚えていない。
切断面である付け根から切り込みを入れ、一周する方法で解体した。
腕より肉厚なのでいろいろと角度を変えて切り刻んでいく。足の関節をちぎることができなかったので、分離できないままの状態で、いったんポリ袋に入れた。
ひざのお皿の骨はトイレに流し、足の甲はノコギリで切って4つほどに分けて袋に戻す。
解体作業を終えた後は隠していた彼女の衣服やカード類をハサミで切り刻みトイレに流していった。
気が付くと日が変わり20日の午前5時頃になっていた。
とても一日で終わるような作業ではない。
「何日間か同様のことをするしかないな・・」
星島はそのように考えた。
20日警察の室内捜索
20日は日曜日。今日も仕事は休みだ。
夕方の4時頃に目を覚ますと、とりあえず近くのコンビニかスーパーかに食べ物を買い物に行った。
エレベータ内で1階の入り口からやってきたひとりの男性と一緒になった。
自然体を装い自分から話しかけることにした。
「大変なことになりましたね。どちらの部屋の方ですか?」
「えぇ。実は当事者の父親でして・・」
頭の中が真っ白になった。
ヤバい・・。
とりあえず会話を続けないと怪しまれてしまう。
「私は918号室に住んでいる者です。お役に立てず、すいません」
父「そういうマンションだと思って契約したので、気にしないでください」
『そういうマンション』とはつまり、一人暮らしが多くお互いに交流のない場所という意味だ。少なからず星島はそのように解釈した。
やさしい父親だな・・。心の中でそのように思った。
申し訳ない。殺してしまって申し訳ない・・。絶対に捕まりたくない一心で、早く逃げ出したくて仕方がなかった。
謝りたいという良心は少しだけ心の中にあった。ほんの少しだけ。
ただし逃げたいという気持ちのほうが圧倒的に強かった。逮捕されずにいたらずっと誤魔化してその後の人生を歩んでいただろう。
自室に戻ったあと、夕方に再び警察官が自宅に聞き込みに来た。
胴体の入った段ボールは相変わらずベッドの下に他の段ボールに紛れて置いてある状態だ。
室内に入った警察は一番右手前にあったCDやゲーム機などを入れている段ボールの中を調べ始めた。すぐ隣には胴体が入ったものがある。
星島はとっさに機転を利かせた。胴体の入ったものを指さしこう言った。
「こちらの段ボールも見ますか?」
警察の気力を失わせる究極の賭けである。イチかバチかの大勝負だ。
警察「いいえ結構です」
その言葉を聞いて死ぬほどホッとした・・。
捜査員は浴室内も捜査した。それは天井裏まで調べるほど入念なものだった。
頭部を隠しているクローゼットの中も調べられたが、結局それが収められているパソコンの空き箱は見られずに済んだ。
星島は冷静さを装うことに全ての意識を集中した。
「とにかく怪しまれてはいけない」
冷蔵庫の中に入れてあった解体済みの腕などにも気づくことなく、警察は結局なにも発見できないまま去って行った。
20日夜
夜8時になり遺体の解体を始めた。
時間が経過し青黒く変色している胴体を仰向けに置く。
へそにピアスが付いていることに気が付く。
細い金属の棒の両端に丸い玉が付いていて、ネジ状になっている片側から止めるタイプだ。付属のアクセサリーなどはないシンプルなデザインである。
特に利用価値はないので外してトイレに流した。
左右からヘソに向かって切り込みを入れ、まわりの肉を取り除いていくと内臓が見えてきた。
切り取った肉は今までどおりトイレに流していく。
内臓も少しずつ切り取って、包丁で細かくしてトイレに捨てていった。
やがて子宮が見えてきた。
「人間の女の子を殺したんだ・・。生きていたら子どもも作れたのだろう」
遺体解体時には何も考えないようにしていたが、この時だけは現実感がわき自身の体が固まりだした。
だがすぐに忘れる努力をした。
子宮も同様にトイレへと流す。
腰の中央部あたりを切り離していくと背骨へと到達したが、さすがに太く簡単には切り離せない。1ヶ所を切断するのに30分はかかった。
胴体を上下に切り分けると、うつぶせの状態にして下半身にあたるほうから切っていく。
まずはお尻のまわりの肉に包丁を入れた。
太ももの付け根から股間の肉を切り取り、出てきた骨盤は背骨との接着面をノコギリで切り落とした。
バラバラにした骨盤は湯船に戻す。
次は上半身だ。
仰向けの状態にして、左胸に切込みを入れて肉を切り取ると肋骨が見えてくる。
切りやすくするため初めに胸骨を取り外し、肋骨は中間のあたりから切り離した。
心臓や肺などは包丁で切ってトイレに流した。
内部が空っぽになった上半身を今度はうつ伏せにして、背中を少しずつ切り離していく。
肩は筋肉がつながっていて容易には取り外すことができなかったので、結合しているところに切り込みを入れ外すことにした。初めは左で次は右という順番だ。
背骨をノコギリで切り、ひと通りの作業が終了すると全体の骨の量はゴミ袋1杯分くらいになった。
すでに夜は明けて21日の午前7時である。約11時間も解体に従事していたことになる。
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