星島貴徳物語 – 第7章
21日出勤日
21日は月曜日で職場に行く必要がある。
一睡もすることはなく出勤までの間、衣服やその他小物を切り刻んでトイレに流す作業に取り掛かっていた。
相当な疲労もあり遺体の解体で気持ちも悪くなっていたので、さすがに仕事を休むことも考えたが、怪しまれることを警戒し出勤することにした。
冷蔵庫の中の腕や足を緑色のバッグに入れて外に持ち出して捨てることを思いついた。しかしマンションのエントランスには警察官が大勢いて住民を監視している状態だ。
「もしバッグの中身を見られたら彼女を殺害したことがバレてしまう」
そのような考えで、この日は空のバッグを持って外に出て、警察がどのようにチェックしているのかを確かめることにした。
午前10時から始まる仕事に合わせて自宅を出たが、エントランスにいた警察にバッグの中身を尋ねられることなく通過することができた。
「これなら明日からバッグに入れて切断した遺体を持ち運べる・・」
プログラマとして働いていた星島だが、重度の疲労からこの日は全く仕事に手が付かない状態だった。気付けば机の上で眠っている自分がいる。
同僚に怪しまれないよう自身に喝を入れて眠気に耐えていたが、さすがに無理がある。
アルゴリズムなど考えられる状態ではない。
結局この日は午後5時半の退社時間まで仕事にまるで手が付けれなかった。
帰宅途中豊洲駅近くの大型雑貨店に寄った。新しい包丁を購入するためだ。
19日か20日、どちらかだったか記憶が曖昧だが、警察に室内を見られた際に台所に包丁が3本あることを確認されている。
2本は自身が持っていた大小と、残りの1本は916号室から持ち出して殺害に使用したものである。
血はキレイに洗い流しているが、被害者の姉が包丁の特徴を覚えていると、妹を拉致して殺害した証拠になる可能性がある。
だからといって廃棄をすると再び警察が訪問したときに1本なくなっていることに気が付くかもしれない。そこで代わりとなるものを新しく買うことにより辻褄を合わせようとしたのだ。
雑貨店で肉をミンチにする機械をたまたま見かけたので、遺体の処理が楽になるかもしれないと衝動的に購入した。
ここ数日は食べ物がろくにのどを通らない状況だったのでイチゴでも食べようと青果店にも立ち寄った。
マンション前まで来ると前日同様マスコミが張り付いている。
「ミンチの機械を見られると怪しまれる可能性があるな・・」
そう考えた星島は購入したてのその箱をゴミ箱に捨てた。
その夜は21時ほどまでテレビやインターネットで事件の報道をチェックすることに努めた。
マンションの防犯カメラに女性が連れ出された様子が映っていないということが放送されていた。ただしその防犯カメラには四角もあり、外部犯の可能性を疑わせるような番組報道もある。
「これは助かるかもしれない」
そのような考えが頭に浮かんだ。
21時頃になってから押し入れのパソコンの箱の中に隠していた頭部の解体に取り掛かることにした。
ゴミ袋に入っている状態で浴室へと持っていき、そこで開封すると強烈な悪臭が漂った。
「だいぶ腐ってきたな・・」
取り出した頭は血で髪の毛がベタベタした状態だ。
ゴミ袋も証拠になると考え、再び使用するため血は洗い流した。
髪の毛は10cmほどの長さにハサミで切ってトイレに流していった。根元の部分はカミソリで剃っていく。
このカミソリは捨てないことにした。発見されて証拠となることを恐れたのだ。
顔が自分の方を向いていると作業がしにくいと考え、反対側に向かせた状態で耳があっても構わず皮をはいでいき、取り除いた分は切り刻みトイレに流した。
頭部は骨が全面に露出した状態になる。
次に頭頂部からノコギリで横に切り、左手を入れると脳が出てきた。それを3回か4回に分けて、手ですくってトイレへと持っていく。
頭部の骨をさらに小さく切っていく作業を続ける。
「これは私が殺した人ではない。自分とは全く関係のない別ものだ・・」
このように自分に言い聞かせることにより、切っていることを考えないようにした。
さすがに頭蓋骨は大きいので後頭部とアゴの部分を2つに切断し、元の袋に入れて冷蔵庫に隠した。解体には4時間を要し、気が付くと午前1時になっている。
その後衣服を切る作業に切り替え、3時ごろに終えるといったん仮眠を取った。
職場での評判
足のヤケドに負い目を感じて生きてきた星島だが、必ずしも全ての人間関係が悪かったわけではない。
プログラマとしての腕はたしかであり、社内での評判は上々だった。
逮捕後に「派遣社員」として報道されることになるが、ただしくは個人事業主という形式である。
社内では若手に対する技術的なフォローや新人教育指導も行い、信頼される立場にある。
勤務先の職場は雇い主という形で、主な元請けはお台場にある会社だ。星島のスピーディーは開発に相手の方から感謝された事もある。
残業などはまずしない。仕事が早いのでする必要がなかった。
事件の前年は参加しなかったが、それより2-3年前までは忘年会などにも顔を出し、積極的にカラオケを歌うなどして楽しく飲むような一面もあった。
もちろん同僚の女性との間でトラブルなどもない。
はたから見れば「文句なしにできる人」である。
ただし誰もから認められるような立場になると、その優越感は逆に人を見下す材料へとなっていく。
口に出して相手を悪くは言わない。ただし内心では他人を蔑んだ目で見ていた。
電車は不快なので乗車せず、通勤はいつもタクシーを利用。
街を歩いているときに同じ方角に向かっている人の存在をうっとうしく感じたことすらある。
「自分は人より優れている」
「自分は特別な人間なんだ」
このように自身に言い聞かせることで、心にぽっかりと空いた穴を必死で埋めることに努めた。
ただし本当は単なるコンプレックスの裏返しだった・・。
人を見下すことで自我を保ってきたのだが、それが限界に達していた。
「どんな手段を使ってもいいから、すがれるものが欲しくて仕方がない・・」
星島の中でその答えが「性奴隷」だった。
22日出勤日
22日火曜日。今日も出勤する必要がある。
いつもどおり緑色のカバンを持ち部屋を出るのだが、この日は中に腕と足の骨、女性の服と916号室から持ってきた包丁を入れていた。
マンションの1階に警察官が立っていた。
星島ここでひと芝居打った。自分から話しかけに行ったのだ。
「事件はどうなっているのですか。マンションの中に犯人はいるのでしょうか?」
被害者女性の骨を手にしているのにずいぶんと大胆な行動だが、本当は怖かった。怖いからこそ情報を聞き出そうと試みたのだ。
結局カバンの中は見られることなく、そのまま潮見駅前のマンションのゴミ置き場へと向かった。
骨は燃えるゴミに、包丁は燃えないゴミと律儀に分類して廃棄した。できるだけ怪しまれないよう、そこに住んでいる住人かのように振舞った。
仕事が終わり自宅に戻ると前日と同様遺体の解体に取り掛かった。
まだ大きな骨がある。
肩甲骨、骨盤、肋骨をノコギリで切っていく。
特にサイズは定めていない。とにかく小さくすることが目的である。
骨盤は10個以上にバラバラにしゴミ袋に入れた。袋は全部で4-5個にまでなった。
「冷蔵庫の中はまだ一度も見られてないけど、浴室の天井裏は何度か調べられてるな」
そのように思い、骨の入った袋は浴室の天井裏に移した。もう見られないだろうという計算だ。
23日出勤日
朝いつものように起床すると、この日は緑の手提げかばんを持たずに自室を出た。もしかしたら前日骨を捨てたことを怪しまれているのではないかという思いからだ。
ただし前日と同じく持ち物検査などはなく通常どおり出社できた。
「どうやら警察はこの時点で自分のことを怪しんでいないようだ」
23日は仕事を早退した。
継続する疲労の日々、仕事場で居眠りすることもあり同僚に怪しまれるくらいならいっそのこと具合が悪いことにして帰宅したほうがいいと考えたのだ。
この頃になると、色々なことを忘れたい気分でいっぱいだった。
自宅に到着すると、確認のため浴室の天井裏から袋を取り出した。
袋から血が落ちていることに気が付く。
「破れてる・・」
パニックに陥るが高さがあり天井裏は見ることができない。
しょうがなくタオルで拭こうとしたが、肝心のところにまで届かないので袋が置かれていた箇所に投げるようにしてタオルを置き、血が染み込むかを確認してみることにした。
案の定血が付着したので、タオルを洗い天井裏に投げつけるという方法を何度も繰り返した。
あまりはっきりとは覚えていないが、この時タオルの代わりにTシャツを利用したのかもしれない。
天井裏を拭き終えると、骨を入れる袋を取り換えることにした。
24日・25日出勤日
24日は二日前のように緑のカバンに骨を入れて出勤した。
このときマンションの管理会社にクレームの電話を入れている。
「カメラが少ないと思うのですが」
あくまでも事件とは無関係のように装うためである。
25日も緑のカバンに骨を入れて持ち出そうし、袋を開封するとものすごいニオイが漂った。
「だいぶ腐ってきているな・・」
悪臭で気付かれる可能性がある。
ニオイを取るために鍋で煮ることを思いついた。とりあえず出勤しないといけない。
腐敗が進んでいない骨や社員証などの遺品をカバンに入れて自室を出た。
社員証の一部はトイレに流しているので、結果として証拠となるものは分散して捨てたことになる。
先日と同様近くのマンションのゴミ捨て場に捨てていった。
この時点で骨以外の遺品は918号室からは全て無くなっていた。
仕事が終わり自宅に戻ると夕方からさっそく腐った骨をゆでることにした。
使用するのは以前から使用している直径20cm、深さ10cmほどの鍋だ。
ゆで始めるとものすごい悪臭がした。骨に付着していた肉や小さな骨がポロポロと落ちていく。
ゆで終わった骨はキッチンペーパーの上に整然と並べていき乾かした。
背骨はさすがに一度では鍋に入らないのでノコギリで切断した。その後にゆでると1つ1つの骨に簡単に分かれるようになった。
首の骨も同様にゆでていく。