天才ハッカーアイスマンの正体とマックス・バトラーの素顔 – 序章
世界仰天ニュースの内容はデタラメ
日本テレビ放送のザ!世界仰天ニュース「天才ハッカーアイスマンの正体」をたまたま観る機会があり、IT に関わる者としていくらか興味が湧き海外の資料を当たってみたところ、放送された内容の多くに事実誤認が存在したので書き記しておきます。
番組の演出上事実と違うことを映像で流しているだけという指摘はあるかもしれませんが、若干厳しめに行こうと思います。
ザ!世界仰天ニュースをここでは「仰天ニュース」もしくは「番組」と省略して記します。
修正箇所が見当たれば逐次更新していきます。
番組内ではこの写真のみが使用されかなり謎めいた印象を持った視聴者が多いと思いますが、ここではマックス・バトラーの真の人物像に迫るため、その他の写真も使用します。
ちなみに私が目を通した資料を元に事の成り行きを余すことなく書くと彼の伝記になってしまいかなりの量になってしまうので、ストーリー自体は所々省略します。
訳書『アイスマン』について
アイスマン事件を記録した KINGPIN の訳書にいくらか目を通しています。
翻訳というのはなかなか骨の折れる作業なので訳者の方には頭が下がりますが、以下の理由により、いくらか問題があると個人的に考えています。
- 訳語が不自然
- 訳さずに飛ばしている文章が存在
- 人名のカタカナ表記がおかしい
①は例えば、以下のような訳文です。
…the contents of the RAM would have evaporated.
…RAMの中身は雲散霧消してしまう。
ここは「揮発してしまう」というのがコンピュータ的に正しい表現だとおもいます。
②は往々にしてあることです。
実はあなたが読んでいる訳書の多くは本筋からズレない範囲で、いくらか文章を飛ばしてまとめられています。
私は報酬をもらうという形で翻訳作業をした経験はありませんが(ご飯をごちそうになったことくらいはあります)、訳すことが困難な箇所でも注釈を付けてでも全文翻訳する主義なので、こういうことには違和感を感じます。
③は Giannone を「ジャンノーネ」や Silo を「シロ」と表記しているところです。
「ジアノーン」と「サイロ」のほうがより正確でしょう。
ハッカーかクラッカーか
ハッカー:
常人よりコンピュータシステムやネットワークについて深い知識を有する者クラッカー:
自らのコンピュータの知識を悪用し、権限を持たないシステムへ侵入し破壊行為を試みる者
上記は辞書からの引用ではなく、あくまで私個人が考える定義です。
今では特定のキーワードを打ち込み数回クリックするだけで無料のハッキングツールや社会を震撼させたコンピュータワームのソースコードが入手可能です。
それどころか最近発見されたセキュリティーホールを公表するサイトや、それらを攻撃するツールを早い段階でアップし無料でダウンロードができるサイトすら存在します。
一昔前にハッカーと聞くと ALTOS や IRC などに足繁く通う一部の凄腕プログラマという、なんとも言えないミステリアスな雰囲気が漂っていましたが、現在では他人が作ったツールを使えば誰でもインターネット空間でイタズラができ、ハッキングという言葉自体がだいぶ世間になじんだという感じがします。
ではハッカーとクラッカーの違いはなんなのでしょうか。私は基本的に同じものと考えて問題ないと思います。
「ハッカーという言葉自体に悪い意味合いはない!」
「システムに不正アクセスして破壊行為を行うやつはクラッカーだ!」
その通りです。間違っていません。
ではそれら言葉の発祥地であるアメリカではどうかと言うと、hacker でほぼ統一されています。
crack という単語は「パスワードを破る」という意味合いが強く、「ネットワークをクラックする」などという文章を見ないわけではありませんが、両者はこだわりなく使用されている感じを受けます。
そもそも善意のハッカーと悪意のあるハッカー(クラッカー)という名前分け自体アメリカ発ですが、その試みは見事に失敗しています。
Yahoo!ニュースや YouTube などのコメント欄を見るとハッカーとクラッカーという呼称分けにやたらと固執する人たちがいますが、それは木を見て森を見ない類の議論だと思います。
上記の理由により、ここではハッカーという言葉で統一します。
悪しからず。
次章:天才ハッカーアイスマンの正体とマックス・バトラーの素顔 – 第1章
日本語でアイスマン事件を記した唯一の本!
世界仰天ニュースで放送された「天才ハッカーアイスマン」の成り行きを描いた書籍です。番組では編集上の問題でおしくも省かれてしまった事件の全貌を知りたい人にとっては最高の一冊です。首謀者であるマックス・バトラーを記した書籍としては唯一日本語で読めるものとなっています。
◎テレビで放送されていない話が満載
×翻訳に一部問題あり
アイスマン事件をつぶさに追った元ハッカー、ケビン・ポールセン氏の一作!
こちらは上で紹介している書籍「アイスマン」の原本となります。世紀の大規模サイバー犯罪としてアメリカ国内でも多く報道されましたが、ひとつの書籍としてまとめられているのはこの一冊だけとなります。英語を勉強している人にもおすすめの一冊です。
◎アイスマン事件を知るには一番の良書
×洋書なので英語の知識が必要
天才ハッカー、マックス・バトラーが競合サイトを乗っ取る際に利用した SQLインジェクションや、その他数多くのサイバー攻撃の手法を実際のコードを用いて説明した良書です。本来はそのようなサイバーテロを受けないための防御側の指南書となっています。悪用厳禁!!
◎Webサイトの攻撃手法をとても分かりやすく解説
×コンピュータ言語を多少なりとも理解しておく必要あり