暇人の英語雑記ブログ

天才ハッカーアイスマンの正体とマックス・バトラーの素顔 – 終章

2019.05.172017.01.22アイスマン

アイスマン裁判

裁判には友人も家族も来てくれず、交際していた彼女のチャリティーもマックスの釈放を待つつもりはないと伝えており、彼にとっては非常に寂しいものだったと想像します。

ただし事件に関心を抱く複数のメディアリポーターは来ていたとのことです。

BINDアタックの際には数多くの友人や関係者がマックスのサポートにまわっていたことを考えると、彼にとってこの裁判は精神的なダメージも相当あったと察します。

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ここからが重要なのですが、マックスは一連の事件でいったいどれくらいの金額を得たのでしょうか。

仰天ニュースでは「100億円稼いだ」、「13年の懲役刑で罰金25億円」などと放送していたので「13年間オリの中にいるだけで75億円の利益か・・・」などと思った視聴者もいたと思います。

これはかなりミスリーディングです。アメリカの司法制度では、被告人がいくら稼いだかではなく被害者がどれほどの不利益を被ったのかという視点で量刑が言い渡されます。

正確にいうと8,640万ドル(約101億円)の被害額に対して2,750万ドル(約32億円)の賠償です。

補足すると、番組内では「2750万ドル(当時約25億円)」などと放送していましたが、それで計算すると1ドル約91円となり、逮捕された2007年の平均為替レートである117円と比べ大幅な差異があります。

いったいどのようなことをしたら、そこまで計算が狂うのか番組を制作した人に聞いてみたいですね。

マックス自身は100万ドル(約1億1700万円)も稼いでいないと話しており、実際に逮捕された際の口座には8万ドル(約936万円)ほどしかなかったということです。

どこかに隠し持っている?

その可能性は否定はしません。ただし当時マックスに対する量刑は被害規模から計算すると懲役30年から終身刑と言われていましたが、フタを開けてみれば13年です。

これはマックスが捜査に非常に協力的だったということと、彼の物腰の柔らかさやその人間性に捜査関係者が魅了されてのことです。

実際に American Greed でのインタビューを見た私の彼に対する印象は気の優しい誠実な人といったところです。

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ルーク・デンボスキー

事件を担当した検事であるルーク・デンボスキーは裁判前に被告席に行き握手を求め、マックスはそれを笑顔でうなずき応じています。よほど彼の人間性に魅力を感じたのでしょう。

よって彼が秘密口座を持っているのような話は、個人的には現実的ではないと思います。

加えて言うと、捜査関係者の話としてアラゴンは少なくとも100万ドル(約1億1700万円)は稼いだとのことですが、マックスは American Greed のインタビューで「稼ぎの半分はもらえると思っていたけど、そういうことは一度もなかった」と述べており、それが事実なのであれば事件の規模に比べて利益はかなり少なかったと思われます。

クリス・アラゴンのその後

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クリス・アラゴン

アラゴンには懲役25年が言い渡されました。

このとき52歳という年齢を考えると絶望的ですね。

ちなみに妻からは離婚と2人の子どもの親権を求める申請をされ、不倫をしていた相手の女性からは隠し子の養育費を請求されています。

まあ自業自得といったところでしょうか。

マックス・バトラーのその後

刑務所に収監されたマックスは刑期の短縮を願いレポートを書き上げました。

Why the USA Needs Max

なぜアメリカ合衆国はマックスが必要か

その中で彼は「私は中国軍のネットワークや軍事産業にも侵入できる」、「私はアルカイーダをハッキングできる」などとアピールをしたらしいです。

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キース・ムラスキー

そう簡単にそのオファーに飛びつく政府関係者もいなかったようですが、判決から1ヵ月後にかつての宿敵マスタースプリンターことキース・ムラスキー捜査官は NCFTA にセキュリティ関係者などを集めた前でマックスに講演をしてもらうための手配をしたということです。

いまさら遅いですが、マックスも自身の行為に対しては相当な自責の念があるようです。

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過ちを後悔するマックス

I would say “Go to school.Get an advanced degree, and stay out of trouble”.

I wish I had that advice back then but, uh…


「学校へ行きなさい。上級学位(修士・博士)を取得して、トラブルに巻き込まれないようにしなさい」。

そのようなアドバイスを当時受けれたらよかったと思いますが・・・

素晴らしいスキルを持っているのに本当にもったいないですね。

マックス・バトラー最後の声明文

世界仰天ニュースの放送内容の事実誤認を指摘するために書いたはずのネタが、気付けば事件全体の概要を述べることになってしまいました。

楽しんで読んでもらえたのであれば幸いです。

日本のメディアが海外の報道をするときに話をねじ曲げることはよくありますが、ここまで事実と異なる内容を放送することもめずらしいと思います。

番組の制作に関わった仰天ニュースのスタッフの方たちは事実を誤認したというより、意図的に物語を捏造したと考えています。

今後この番組で海外の話を放送している場合は、話が事実に基づいていない単なるフィクションだと思ったほうがいいでしょう。

最後にマックスが弁護士を通じ、法廷での答弁後に公表した声明を記載して締めくくりたいと思います。

自身のことを三人称で呼んでいるところが考えさせられます。

Max Vision, known in this case as Max Butler, pled guilty today as a first step toward getting this sad chapter of his life behind him.

It is unfortunate that his life circumstances in 2005 led him to participate in this criminal conduct, and he very much regrets doing so…

Max has always preferred using his extraordinary computer skills – his computer vision – for the good of society and the cyber world, and he hopes that he will be given the opportunity in the future to once again don the white hat.


この事件でマックス・バトラーとして知られているマックス・ビジョンは、彼の人生のこの悲しい章を過去のものとするための第一歩として本日罪状を認めました。

2005年における状況が彼をこの犯罪行為に加わることに導いたことは不幸であり、彼はそうしたことをとても悔やんでいます・・・。

マックスは常に自身のコンピュータに対する洞察力など並外れたコンピュータスキルを犯罪ではなく社会とサイバー世界のために活用することを好んでいました。そして彼は将来もう一度ホワイトハットを身に着ける機会が与えられることを願っています。

おまけ動画!マックスのインタビューはこちらから

マックスは刑務所内で再犯していた!衝撃のレポート

天才ハッカーアイスマンシリーズをはじめから読む ⇒

主要参考文献一覧

他にも色々漁っていますが内容が似通っているものが多々あり、それらは省いています。

アイスマン関連でおすすめの書籍
アイスマン
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日本語でアイスマン事件を記した唯一の本!

世界仰天ニュースで放送された「天才ハッカーアイスマン」の成り行きを描いた書籍です。番組では編集上の問題でおしくも省かれてしまった事件の全貌を知りたい人にとっては最高の一冊です。首謀者であるマックス・バトラーを記した書籍としては唯一日本語で読めるものとなっています。

◎テレビで放送されていない話が満載
×翻訳に一部問題あり

KINGPIN
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アイスマン事件をつぶさに追った元ハッカー、ケビン・ポールセン氏の一作!

こちらは上で紹介している書籍「アイスマン」の原本となります。世紀の大規模サイバー犯罪としてアメリカ国内でも多く報道されましたが、ひとつの書籍としてまとめられているのはこの一冊だけとなります。英語を勉強している人にもおすすめの一冊です。

◎アイスマン事件を知るには一番の良書
×洋書なので英語の知識が必要

PHPサイバーテロの技法
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天才ハッカー、マックス・バトラーが競合サイトを乗っ取る際に利用した SQLインジェクションや、その他数多くのサイバー攻撃の手法を実際のコードを用いて説明した良書です。本来はそのようなサイバーテロを受けないための防御側の指南書となっています。悪用厳禁!!

◎Webサイトの攻撃手法をとても分かりやすく解説
×コンピュータ言語を多少なりとも理解しておく必要あり

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