星島貴徳物語 – 第5章
同人誌とダルマ
星島には同人誌を書く趣味があった。
活写される女性は強姦されているものが多い。そういう性的欲望が多かれ少なかれあった。
性奴隷をつくるという願望もその延長線上にある。
手足のない、いわゆる「ダルマ」と呼ばれる自由が利かない女性像も描くが、なにもそのような異様な体形そのものに興奮を覚えていたわけではない。
「完全に自分に依存する女性」
求めているものはそれだけだった・・。
遺体解体を再開
浴室に戻り手足の切断を再開した。
最終的に浴槽の中は胴体のない両足と両手が置かれる状態となる。
包丁を入れているときに切り口から赤い筋となり流れていた血は、シャワーで排水溝の中へと流していった。
作業をひと通り終えると、切り落とした腕と足を一本ずつゴミ袋に入れて冷蔵庫の中に隠した。
腕2本足2本を、冷蔵庫いっぱいに折り重なるように押し込む。
頭部はクローゼットの中にあったパソコンケースの段ボール箱の中に隠し、その上に緩衝材や他の部品の箱などを置いてカムフラージュした。
浴室に残っていた最後の部分、胴体はゴミ袋に2重に入れて口の部分はガムテープで止めた。
胴体はすでに冷たい。
硬かったか柔らかかったのか、そこまでは覚えていない。持ち上げてみると重みを感じた。
「早くしないと・・」
頭の中はそれだけだった。
自分が人を切り刻んでいること、バラバラにしていること。そのようなことは考えないようにした。
とにかく逮捕だけはなんとしてでも避けたかったのだ。
胴体の入っているビニール袋を床に置き、ベッド下にあった引っ越し業者の段ボール箱の中に仰向けに格納したあとは、上から電気毛布を掛けてすぐには分からないようにして元の場所へと戻した。
段ボールをガムテープで止めるようなことはしない。
そのようなことをするとかえって見た目に不自然さが出てしまい、警察の捜索が来たときに逆に目を引く恐れがあるからである。
胴体を隠し終わったあと一度部屋を掃除した。
女性を寝かしていたエアマットのカバーは血まみれになっていた。
洗っても落ちなかったので、しょうがなく切り刻んで彼女の衣服と同じコンビニ袋に入れておいた。
カバーを外したマットにも同様に血が付いている。
表面に窪みがあるタイプのマットで、その奥に付着した血がタオルでは拭き取れない。そこでシャワーで洗い、その後は浴室の乾燥機能で乾かした。
衣服の処分
彼女の衣服で大きなものは小さくなるまで切っていき、袋に小分けにして頭部の入っている段ボール箱と同じ場所に隠した。
916号室の玄関で拾った黒いバッグの中身も確認した。
中には財布、携帯電話、パスポート、口紅や薬など化粧品の入ったポーチ、システム手帳、住民票、英語で書かれた書籍があった。
後に知ったことだがアイポッドと時計も入っていたはずだが、この時は気づかなかった。
英語の書物は新聞紙のような表紙のものでサイズはA6ほどあり、文庫本よりも大きく厚みは5cmほどある。パッと見で分厚いことが分かる。
財布の中には現金とカードが入っていたが1,500円程度だった。
「これは使えそうだ」
給料は手取りで50万円ほどあり決して経済的に困窮しているわけではないが、お金はちゃっかり貰っておいた。
カード類は細かく切り刻んだ。
システム手帳にはプリクラや証明用の顔写真などが入っていた。
住民票で女性の名前を知る。
東城瑠理香。
「この名前は覚えてはいけないな・・」
取り調べを受けたときにボロが出るかも知れない。
携帯電話には黒いぬいぐるみのアクセサリーが付いていたが、それは切り刻みコンビニの袋に入れておいた。
携帯自体は手元にあれば彼女の生存の偽装など、後日利用できるかもしれないと考え残しておく。
住民票の名前の欄と顔写真も同様に使えると考え、携帯電話に貼り付けておいた。
携帯電話を部屋のどこに隠したかはすでに記憶にない。机の上の封筒や書類の中に紛れ込ませ、スーツのポケットに入れたのかもしれない。
英語の書物は手で細かくちぎっておいた。
「これは普通に捨てても怪しまれないだろう」
一般ゴミとして出すことにした。
化粧品などもコンビニの袋に移し替えた。
「これらは服やその他小物と一緒に捨てればいいだろう」
実はこのマンションに入居したての頃に一度ベランダ伝いに916号室に行ったことがある。
殺害した女性が引っ越してくる前、2月の頭だったと思う。
部屋を整理しているときに自分の荷物の置き場に困ったからだが、916号室の空の室内にはカギがかかっていたので入ることはあきらめた。
4月19日 殺害翌日
女性を殺害した翌日の19日は土曜日であり休日だ。
午後に玄関の方からする物音に目が覚めた。
チャイムかノックだったと思う。
「警察が来た・・」
瞬時にそう思い、強い焦りを感じた。
「部屋を徹底的に調べられたら確実に逮捕される・・」
このとき女性の足と腕が冷蔵庫の中に、頭部がクローゼットのパソコンケースの段ボールの中に、そして胴体がベッド下の段ボールの中に隠された状態である。
まずはじめに着替える必要があったので、すぐに玄関に出ることはできなかった。
扉を開けると刑事と思われる人が2人いた。いや1人だったかもしれない。記憶が曖昧だ。
マンションの廊下は鑑識をしているのか、ビニールが敷かれ足跡を採取している様子だった。
刑事「寝ていましたか?」
事件のことに質問が及んだので、適当に返答しておいた。
怪しまれるといけないと思い星島は大胆な行動に出る。警察に室内を見せてほしいと言われる前に、自ら招き入れたのである。
そうしたほうが室内の捜索が簡単なものになる。人生をかけた博打だ。
918号室に入った刑事は前日に女性を解体した浴室内を確認する。そこにはすでに遺体はない。血もキレイに流し終えている。
このとき彼女がエレベータに乗っている写真を見せられたが、その時はそれが自分が殺害した女性だということに気が付かなかった。
単純に顔を覚えていなかったのだ。
「これは本当に916号室の方ですか?私が見た人と違いますが・・」
刑事「あなたが見たのはお姉さんの方ではありませんか」
そういうことか!
なぜ事件がこれほど早く明るみに出たのか瞬時に理解した。
女性は2人暮らしだったのである。
星島がターゲットにしたのは姉のほうであり、殺害した妹はその存在すら知らなかったのだ。
姉が先に帰宅していれば、そちらを殺害していたであろう。
刑事は部屋をざっと見ただけで、遺体を収納していた冷蔵庫、クローゼットやベッド下の段ボールは確認することなく20分ほどで去っていった。
マスコミのインタビュー
警察が自室から出て行ったあと一度外出した。
15-16時くらいだったと思う。靴を買うためだ。
マンションの通路の鑑識が足跡を採取していると考えた星島は、普段はいていたものを処分して新しいペアを購入すれば、不審者としてマークされることがなくなると考えたのだ。
1階には現場を調査していると思われる刑事の人たちが大勢いる。
マンションを出るとマスコミの人たちがたくさんいることが分かった。取材に応じないと不自然だと思いインタビューに答えた。
「刑事に写真を見せられた」
「事件のことは何も知らない」
「自分が疑われているかもしれない。フフッ」
これは逮捕後に報道各社が幾度となく放送することになる。
「こんなに多くのマスコミや捜査員がいるのでは、切断した遺体は外に持ち出すことは到底できないな・・」
そのようなことを思った。別の方法を考えないといけない。
その後豊洲のホームセンター2階にある靴屋に赴き新しい靴を購入し、それ以外にゴミ袋、バスタオル、そしてパイプの詰まりを除く洗浄剤を買った。
「死体はもっと細かく切り刻めばトイレに流すことができるだろう」
それしか方法がない。
洗浄剤は排水溝に遺体の一部などが残り、汚れてニオイが発生することを抑えるためのものだ。
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